部下の貢献と努力を適切に承認できなかった失敗:自己分析と、チームの士気を高めるコミュニケーション
はじめに
マネージャーの役割の一つに、チームメンバーの成長を支援し、最大限のパフォーマンスを引き出すことがあります。そのために不可欠なのが、メンバーの日々の貢献や努力を適切に認め、承認することです。しかし、日々の業務に追われる中で、この承認の重要性を見落とし、適切なコミュニケーションが不足してしまうことがあります。
この記事では、私自身が部下の貢献と努力を十分に承認できなかった失敗談を基に、その原因を自己分析し、次にどのように改善していくべきかを具体的に考察します。この失敗から得た学びを通じて、チームの士気を高め、より生産的で良好な関係性を築くためのコミュニケーション術を探ります。
部下の貢献を適切に承認できなかった失敗
以前、私が率いるチームで、あるプロジェクトが成功裏に完了しました。チームメンバー全員が遅くまで残業したり、休日返上で作業を進めたりと、多大な努力を重ねて成し遂げた成果でした。しかし、私はプロジェクトの成功そのものや、主要な成果指標の達成にばかり目が行き、メンバー一人ひとりが舞台裏でどのような努力を積み重ね、どのような困難を乗り越えたのかという点に、十分な注意を払えていませんでした。
プロジェクト完了後のチームミーティングや個別での対話においても、「お疲れ様でした」「よく頑張ってくれました」といった一般的な労いの言葉は伝えましたが、誰が具体的にどのような貢献をしたのか、その努力が全体の成功にどう繋がったのかといった点を掘り下げて伝えることができませんでした。また、特に目立つ成果を上げたメンバーには感謝を伝えましたが、地道な作業や陰ながらのサポートでチームを支えたメンバーへの言及が不十分でした。
その結果、プロジェクトは成功したにも関わらず、チーム全体の士気は思ったほど上がりませんでした。一部のメンバーからは、「自分の努力が見てもらえていない」といった趣旨の不満の声が間接的に耳に入ってくるようになり、チーム内の雰囲気に微妙な停滞感が漂い始めました。
失敗の原因に関する自己分析
なぜ、私は部下の貢献と努力を適切に承認できなかったのでしょうか。この失敗を深く自己分析した結果、いくつかの要因が考えられます。
第一に、私自身の「忙しさ」を言い訳にしてしまっていたことです。次のプロジェクトの準備や他の業務に追われ、チームメンバーの「頑張り」を細かく観察し、それを言語化する時間や精神的な余裕を持てませんでした。成果の数字だけを見て安心し、プロセスへの注意が疎かになっていたのです。
第二に、「承認」という行為に対する私の認識不足がありました。「結果を出せばそれが一番の評価になる」「言われなくても自分の役割は分かっているだろう」といった、やや古風な、あるいはプレイヤー時代の名残のような考え方が根底にあったかもしれません。承認は単なる労いではなく、個々の貢献をチーム全体の成果と結びつけ、その価値を伝える重要なコミュニケーションであるという認識が不足していました。
第三に、承認の「タイミング」と「具体性」を意識していなかったことです。プロジェクト完了という区切りに形式的な労いを伝えるだけではなく、日々の小さな成功や努力に気づき、その場で具体的に伝えることの力を理解していませんでした。抽象的な言葉だけでは、相手に「見てもらえている」「理解してもらえている」という実感を与えることは難しいのです。
承認不足がチームに与える影響
私の承認不足の失敗は、チームにいくつかの負の影響を与えました。
最も顕著だったのは、メンバーのモチベーションの低下です。自分の努力や貢献が見落とされると感じると、人は「頑張っても無駄かもしれない」という気持ちになりがちです。これが続くと、主体性が失われ、最低限の業務をこなすだけになってしまう恐れがあります。
また、チーム内の心理的安全性にも影響を与えました。貢献が適切に評価されない環境では、新しい挑戦や率直な意見表明が控えめになる可能性があります。「どうせ評価されないなら、波風を立てずにいよう」という意識が働き、チームの活性化が阻害されます。
さらに、私自身とメンバー間の信頼関係にも亀裂が生じかねません。マネージャーがメンバーの「頑張り」を見ていない、あるいは軽視していると感じられれば、メンバーはマネージャーに対して不信感を抱くようになります。これは、今後の協業や困難な状況を共に乗り越える上で大きな障害となります。
失敗から学ぶ:チームの士気を高める承認コミュニケーション
この失敗から私は、「承認」がマネージャーにとって単なるテクニックではなく、チームの基盤を築く上で極めて重要なコミュニケーションであることを痛感しました。そして、次に活かすために、具体的な行動と意識の変化を決意しました。
1. 承認の目的と重要性の再認識
承認は、単に相手を褒める行為ではありません。それは、個人の行動や成果がチーム全体の目標達成にどう貢献したかを明確に伝え、その価値を認識させることです。これにより、メンバーは自身の仕事が意味のあることだと感じ、内発的なモチベーションを高めることができます。また、チームの一員としての帰属意識や貢献意欲を醸成します。
2. 日々の「観察」と「言語化」の習慣化
メンバーの貢献に気づくためには、日々の業務の中での彼らの行動を注意深く観察する時間を意識的に設ける必要があります。単に成果物を見るだけでなく、そのプロセスや困難への向き合い方、他のメンバーへのサポートなども含めて広く見るようにします。そして、「すごいな」「助かったな」と感じたことをその場で言語化し、伝える習慣をつけます。
3. 承認の「具体性」を高める
「お疲れ様」「ありがとう」だけでなく、具体的に「〇〇さんが〜してくれたおかげで、△△という成果が得られたよ」「〜という状況で、あなたが△△という工夫をしてくれたのが、とても助かった」のように、何に対して、どのように貢献があったのかを明確に伝えます。これにより、相手は何が評価されているのかを理解し、その行動を再現しやすくなります。
4. 承認の「タイミング」を逃さない
承認は、できるだけ貢献があった直後に行うことが効果的です。時間が経ってしまうと、相手の記憶も曖昧になり、承認の効果が薄れてしまいます。日々の小さなポジティブな行動に気づいたら、その場で声をかける、チャットでメッセージを送るなど、即時性を意識します。
5. 承認の「方法」を使い分ける
承認の方法には、1対1の対話、チーム全体での共有、文書でのフィードバックなど、様々な形があります。メンバーの性格や、貢献の性質、状況に応じて適切な方法を選ぶことが重要です。例えば、皆の前で称賛されるのが得意な人もいれば、個別でじっくり感謝を伝えられる方が嬉しい人もいます。
6. 定期的な1on1を活用する
1on1は、メンバーの業務状況やキャリアについて話す場であると同時に、マネージャーがメンバーの日常的な貢献や努力に光を当てる絶好の機会です。「最近何か工夫していることはある?」「あの時の〜は、とても助かったよ」といった問いかけやフィードバックを通じて、普段見えにくい努力を引き出し、承認することができます。
まとめ:失敗を成長の糧に
部下の貢献と努力を適切に承認できなかった失敗は、私にとってマネージャーとしての重要な学びとなりました。成果だけでなくプロセスを、目に見える貢献だけでなく地道な努力を、そして一部のメンバーだけでなくチーム全員の「頑張り」に目を向け、それを具体的に言語化して伝えることの重要性を痛感しました。
この失敗を繰り返さないために、私は「観察」「言語化」「具体性」「タイミング」「方法の使い分け」を意識した承認コミュニケーションを実践し始めています。これは一朝一夕に完璧になるものではありませんが、意識して取り組むことで、確実にチームの雰囲気は変化していくと信じています。
過去の失敗を正直に受け止め、そこから学びを得て、具体的な行動に変えていくこと。これこそが、「ごめんね、そしてこれから」の精神であり、マネージャーとして成長し続けるために不可欠な姿勢だと考えています。この記事が、同じようにコミュニケーションに悩む皆さんの、何かしらの気づきや行動へのヒントになれば幸いです。