遠慮や忖度を生むチームの空気:心理的安全性を高めるマネージャーのコミュニケーションと自己分析からの学び
チームに蔓延する「遠慮」や「忖度」が生むコミュニケーションの壁
チームを率いるマネージャーとして、メンバーが活発に意見を交わし、建設的な議論ができる環境を作りたいと考えている方は多いのではないでしょうか。しかし、現実には、会議で意見が出なかったり、本当の懸念が共有されずに後になって問題が顕在化したりと、コミュニケーションが円滑に進まない場面に直面することもあります。
このような状況の背景には、「遠慮」や「忖度」といった、本音を言いにくいチームの「空気」が存在していることがあります。メンバーが上司や同僚の顔色をうかがい、波風を立てないように無難な発言に留めたり、異論を唱えることをためらったりすることは、チーム全体の思考停止や誤った意思決定に繋がる深刻な問題です。これは、チームにおける「心理的安全性」が低い状態であると言えます。
私自身も、過去に率いていたチームで、メンバーが私に気を遣い、本当に必要な情報を共有してくれなかったために、プロジェクトの方針決定を誤ってしまった苦い経験があります。当時の私は、メンバーには率直な意見を言ってほしいと常々伝えているつもりでしたが、結果としてチームは本音を出しにくい状態でした。この記事では、そのような失敗から学んだことを踏まえ、心理的安全性の低いチームで起こるコミュニケーションの失敗原因を自己分析し、それを改善するための具体的なマネージャーのコミュニケーションと行動について考察します。
心理的安全性の欠如が招くコミュニケーションの失敗パターン
心理的安全性が低いチームでは、以下のようなコミュニケーションの失敗が起こりやすくなります。
- 情報共有の不足: 悪いニュースや懸念事項、疑問点などが上司や関係部署に伝わりにくくなります。メンバーは「自分が発言することで評価が下がるのではないか」「波風を立てたくない」と考え、重要な情報を隠したり、曖昧に伝えたりします。
- 建設的な議論の欠如: 表面的な賛成意見ばかりで、本質的な問題提起や批判的な視点からの意見が出にくくなります。異なる視点からの検討が不足し、意思決定の質が低下します。
- 失敗からの学びの停滞: 失敗が発生しても、原因を正直に共有したり、そこから何を学ぶべきかをオープンに話し合ったりすることが難しくなります。失敗が隠蔽されたり、個人の責任として片付けられたりするため、組織としての学習が進みません。
- 問題解決能力の低下: 困難な課題に直面した際に、メンバー同士が協力して知恵を出し合うことが阻害されます。互いの専門性や経験を活かせず、問題解決が遅れたり、根本的な解決に至らなかったりします。
これらの失敗は、単にコミュニケーションの「テクニック」の問題ではなく、チームの「関係性」や「文化」に根差したものです。マネージャーの言動が、この「空気」を大きく左右します。
自身の言動を振り返る:心理的安全性を損ねるマネージャーの自己分析
私が経験した失敗を振り返ると、メンバーが本音を言えなかった原因は、メンバー自身の問題ではなく、私のマネジメントスタイルやコミュニケーションの取り方にあったと自己分析しています。具体的には、以下のような点です。
- 否定的な反応: メンバーからの懸念や反対意見に対して、無意識のうちに否定的な態度を取ったり、すぐに反論したりしていました。「そんなことは分かっている」「考えすぎだ」といった言葉や、ため息をつくなどの非言語的なサインが、メンバーの意欲を削いでいました。
- 結論への性急さ: 議論の途中で早々に結論を急ぎ、他の意見を聞ききる前に話をまとめてしまう傾向がありました。「時間がないから」「もう決まっているから」といった姿勢が、メンバーに「意見を言っても無駄だ」と感じさせていました。
- 完璧主義的な雰囲気: 失敗や間違いを過度に恐れるような雰囲気を醸し出していたかもしれません。私自身が失敗を認めず、常に正解を求めようとする姿勢が、メンバーに「失敗は許されない」というプレッシャーを与えていました。
- メンバーの心理状態への無頓着: メンバーが何か言いたそうにしていても、忙しさにかまけて声をかけなかったり、表情の変化に気づかなかったりしました。メンバーが話しやすい雰囲気を作るための配慮が不足していました。
これらの自己分析から、心理的安全性を高めるためには、マネージャー自身の「聞く姿勢」「失敗への向き合い方」「メンバーへの関わり方」を意図的に変える必要があると痛感しました。
心理的安全性を高めるためのマネージャーのコミュニケーションと具体的なステップ
心理的安全性の高いチームを築くことは、一朝一夕にできるものではありません。しかし、マネージャーが意識的にコミュニケーションを変え、具体的な行動を積み重ねることで、チームの空気は確実に変わっていきます。以下に、そのための具体的なステップをいくつか提示します。
1. 「聞く」姿勢を徹底的に強化する
メンバーが安心して話せる環境を作る最初のステップは、マネージャーが「聞く」ことに意識を集中することです。
- アクティブリスニングの実践: 相手の話に真摯に耳を傾け、うなずきや相槌、要約を挟むことで、しっかり聞いていることを示します。話を遮らず、最後まで聞くことを心がけてください。
- 「オウム返し」や「感情の反映」: 相手の言葉や感情を繰り返すことで、理解しようとしている姿勢を示します。「つまり、〇〇ということですね」「それは〇〇と感じているのですね」といった言葉遣いが有効です。
- 沈黙を恐れない: メンバーが考え込んでいるときや、何かを言い淀んでいるときは、無理に言葉を引き出そうとせず、相手が話し出すのを待つ静寂も大切です。
2. 失敗を非難せず、学びの機会とする文化を作る
失敗を恐れるチームでは、新しい挑戦や率直な意見表明は生まれません。失敗をチーム全体の学びとして捉える姿勢をマネージャーが示すことが重要です。
- 自身の失敗談を共有する: マネージャー自身が過去の失敗談や、現在進行形の悩み、分からないことをオープンに共有します。これにより、「マネージャーも完璧ではない」「失敗しても大丈夫だ」という安心感をメンバーに与えることができます。
- 失敗を「原因究明」と「再発防止策」に繋げる: 失敗が発生したら、誰かを責めるのではなく、「何が起きたのか」「なぜ起きたのか」「どうすれば次は防げるか」を冷静にチームで話し合います。原因分析の際は、個人のスキルだけでなく、プロセスやシステムの問題にも焦点を当てます。
- 「学習するチーム」であることを意識する: 失敗は避けるべきもの、ではなく、成長のための貴重なデータであるという共通認識をチーム内に醸成します。
3. 多様な意見を歓迎し、心理的安全性を高める対話術
異なる意見や視点を引き出し、それらを尊重するコミュニケーションを実践します。
- 問いかけの工夫: メンバーに意見を求める際に、「これについてどう思いますか」だけでなく、「このアイデアの懸念点は何だと思いますか」「もし自分が顧客だったらどう感じますか」など、様々な角度からの問いかけを行います。
- 「反対意見も歓迎する」と明言する: 議論の冒頭などで、「ここではどんな意見でも歓迎します。特に、私の考えと違う視点からの意見は大歓迎です」といったメッセージを明確に伝えます。
- 発言内容への反応: 意見が出た際は、まず「〇〇さん、意見をありがとうございます」と感謝を伝えます。内容に対する評価は一度脇に置き、まずは「聞く」ことに徹します。否定的な意見に対しても、「貴重な視点をありがとうございます」と受け止める姿勢を示します。
- 会議のファシリテーション: 特定のメンバーばかりが話したり、発言力の強い人に場の空気が支配されたりしないよう、バランスを取りながら進行します。発言の少ないメンバーにも、「〇〇さんはこれについてどう思いますか」などと、参加を促す工夫をします。
4. 1on1ミーティングなどを活用し、個別に関係性を構築する
チーム全体でのコミュニケーションだけでなく、個別のメンバーとの関係性構築も心理的安全性を高める上で不可欠です。
- 定期的な1on1の実施: 業務の進捗確認だけでなく、メンバーのキャリアの悩み、チームへの懸念、プライベートな話なども含め、非公式な対話の機会を設けます。ここで、メンバーが安心して本音を話せる信頼関係を築きます。
- メンバーへの関心を示す: メンバーの人柄や強み、関心事などを把握し、それに基づいた声かけや関わり方をします。単なる業務上の指示だけでなく、「最近どう?」といった声かけ一つでも、安心感を与えることがあります。
変化はゆっくりと、しかし確実に
チームの空気は、一回の失敗や一回の取り組みで劇的に変わるものではありません。マネージャー自身の意識と行動を継続的に変え、それをメンバーに示すことで、徐々にチームに変化が生まれます。
私自身の失敗からの学びは、「マネージャーがどれだけ『風通しの良いチームにしたい』と思っていても、その言動がメンバーの心理的な壁を作っていないか、常に自己分析し続ける必要がある」ということでした。そして、それは「ごめんね」と過去の失敗を受け止め、「これから」どう変わっていくかを具体的に示し、実践し続けるプロセスなのだと理解しています。
心理的安全性の高いチームは、情報共有がスムーズになり、建設的な議論が活発化し、失敗から学び、変化に柔軟に対応できる、より強い組織へと成長していきます。本記事が、貴社のチームのコミュニケーションをさらに高めるための一助となれば幸いです。