メンバーの負担増加を見過ごした失敗:バーンアウトを防ぐ対話と自己分析からの学び
はじめに
チームメンバーのパフォーマンスが低下したり、突然体調を崩してしまったり、予期せぬ離職に至ったりと、マネージャーとしてショックを受ける出来事があるかもしれません。その原因が、メンバーの業務負担や精神的な過負荷であることに、問題が表面化してから初めて気づくという経験は、多くのマネージャーが一度は直面しうる失敗ではないでしょうか。
なぜ、メンバーの負担増加というサインを見過ごしてしまうのでしょうか。そして、どのようにすれば、こうした失敗を防ぎ、チームメンバーが健全に働き続けられる環境を築けるのでしょうか。
本記事では、メンバーの負担を見過ごしたという失敗から学び、バーンアウトを未然に防ぐためのマネージャーの自己分析と、実践的なコミュニケーション術について考察します。
私が見過ごした失敗:メンバーの「大丈夫」を鵜呑みにして
過去に、あるチームメンバーが非常に意欲的で、頼んだ仕事は決して「できません」と言わないタイプでした。私はそのメンバーの能力を高く評価しており、「〇〇さんなら大丈夫だろう」と、つい難易度の高い業務や緊急度の高いタスクを任せてしまうことがありました。
定例の進捗確認では、いつも「順調です」「問題ありません」という報告を受け、私は安心して任せきりになっていました。しかし、ある時期からそのメンバーの表情に精彩がなくなり、些細なミスが増え始めました。心配して声をかけましたが、「大丈夫です、ちょっと疲れているだけです」と答えるばかりでした。
結局、そのメンバーは体調を崩し、しばらく休職することになってしまいました。診断名は、過労によるバーンアウトでした。この時、私は自分のコミュニケーションのあり方と、メンバーへの関わり方を根本から見直す必要があると痛感しました。
失敗の原因分析:なぜ負担のサインを見落としたのか
メンバーの負担を見過ごしてしまった原因は、多岐にわたると考えられます。私の場合は、主に以下の点が挙げられました。
- 自身の忙しさからの視点不足: 自身の業務に追われ、メンバー一人ひとりの状況を深く観察する時間や心の余裕がありませんでした。
- メンバーへの過信と思考停止: 「できる人だから」「プロだから」という過信から、「大丈夫だろう」と思い込み、深く確認することを怠りました。
- 形式的なコミュニケーション: 定例の進捗確認は行っていましたが、それはタスクの進捗を追うことが主目的であり、メンバー自身の状態や感情、潜在的な困りごとを引き出すような対話が不足していました。
- 「大丈夫」という言葉の裏を読まない癖: メンバーが「大丈夫」と言った際に、本当に大丈夫なのか、それとも遠慮や強がりが含まれているのかを見極める問いかけや観察をしていませんでした。
- 心理的安全性の欠如: メンバーが自身の困難や弱みを正直に話せるような、安心できる関係性が十分に築けていませんでした。
これらの原因は、マネージャー自身の「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」や、チーム内のコミュニケーション習慣に根ざしていることが多いものです。
自己分析:メンバーの負担に対する自身の感度を測る
この失敗から立ち直るために、私はまず自己分析を行いました。メンバーの負担増加を見過ごしてしまう背景には、自分自身のどのような思考や行動パターンがあるのかを振り返る必要がありました。
- メンバーの「状態」にどの程度意識を向けていたか: 業務の成果だけでなく、表情、声のトーン、態度、勤務時間といった「状態」を示すサインに、日頃からどの程度注意を払っていたか。
- メンバーとの対話で、業務内容以外の話題にどの程度時間を割いていたか: プライベートに立ち入るのではなく、体調や気分、業務に対する内面的な感覚など、心理的な側面に関する対話をどの程度行っていたか。
- メンバーの「弱音」や「困りごと」に対する自身の受け止め方: メンバーからのネガティブな報告を、問題として受け止めるか、それとも甘えや能力不足と捉えてしまう傾向があるか。
- 「マネージャーとしてすべてを把握しなければならない」というプレッシャー: メンバーに頼りすぎることへの不安から、かえって任せきりになってしまい、詳細の把握を怠っていないか。
こうした自己分析を通じて、私は自分が「成果」や「完了」に目を向けがちで、メンバーの「プロセス」や「状態」に対する注意力が不足していたことを認識しました。また、「できるメンバーには任せておけば安心」という勝手な思い込みが、深い対話を妨げていたことにも気づきました。
次に活かす具体的なコミュニケーション術:見えない負担を「見える化」する
失敗から学び、メンバーの負担を早期に察知し、バーンアウトを防ぐためには、コミュニケーションの方法を変える必要があります。単に進捗を確認するだけでなく、メンバーの「見えない負担」を「見える化」するための対話と仕組み作りが重要です。
1. 1on1の質を高める
定期的な1on1ミーティングは、メンバーの状況を深く理解するための重要な機会です。タスクの進捗だけでなく、以下の点を意識して対話します。
- 業務以外の切り口からの質問: 「最近、何か気になることや心配なことはありますか」「体調はいかがですか」「週末はゆっくり過ごせましたか」など、業務から少し離れた質問から対話を始める。
- 感情や負担感に関する質問: 「今の業務量について、正直なところどう感じていますか」「このタスク、負荷はどれくらいだと感じますか」「何か手一杯になっていることはありませんか」など、率直に負担感について尋ねる。
- 傾聴と観察: メンバーの話を遮らずにしっかりと聞き、言葉だけでなく表情や声のトーンなど、非言語サインからも情報を読み取ろうと努める。
- 安心感の醸成: 困りごとを話しても評価が下がるわけではない、むしろ協力したい、という姿勢を示す。
2. 報連相のルールと質を改善する
単に「困ったら報告して」と言うだけでなく、どのような状況で報告・相談してほしいのかを具体的に伝えます。
- 「懸念点」の共有を習慣化する: 進捗が遅れていなくても、「〇〇の点で少し懸念があります」「今のペースだと少し厳しいかもしれません」といった懸念点を気軽に共有できる雰囲気を作る。
- 週次の業務量・負荷の共有: チーム全体や個人のタスクリストに加え、週の始まりにそれぞれのメンバーが今週の業務量をどのように見込んでいるか、特に負荷が高いと感じる業務はないか、などを簡単に共有する時間を設ける。
3. 期待値の継続的なすり合わせ
新しいタスクをアサインする際や、プロジェクトのフェーズが変わる際に、期待値と現実のズレがないかを丁寧に確認します。
- 業務内容、目的、期待される成果に加え、想定される所要時間や難易度についても具体的に話す。
- メンバーがその業務に対して感じている懸念や不安がないかを確認し、解消する。
- 進行中に想定外の困難に直面した場合の相談ルールを明確にする。
バーンアウト予防と早期対応の仕組み化
個別のコミュニケーションに加え、チーム全体としてバーンアウトを予防し、早期に異変に気づくための仕組みを構築することも有効です。
- チーム内での心理的安全性の向上: 失敗を責めない文化、助け合いの文化を醸成する。困っている人がいれば、他のメンバーが自然とサポートに回るような関係性を目指す。
- 定期的なワークロードチェック: マネージャーがチーム全体のタスクリストと各メンバーの状況を定期的に確認し、特定のメンバーに業務が集中していないか、無理なスケジュールになっていないかなどをチェックする。
- 体調やメンタルヘルスに関する情報提供: 社内の相談窓口や利用できるリソース(産業医、EAPなど)の情報を定期的に共有し、必要な時に気軽に利用できる雰囲気を促す。
- 異変に気づいた際の初動: メンバーの様子がおかしいと感じたら、「大丈夫?」だけでなく、「何か力になれることはある?」と具体的にサポートを申し出る。必要に応じて1on1の機会を設けたり、専門家への相談を促したりする。
まとめ:失敗を次に活かす継続的な努力
メンバーの負担増加を見過ごしてしまった失敗は、マネージャーとしてメンバーの健康やキャリア、そしてチーム全体の持続可能性に対する責任を改めて認識させてくれる機会となります。この失敗から得られる学びは、単なるコミュニケーションテクニックの習得に留まりません。自身のメンバーへの関心度、期待値の置き方、そして困難に対するメンバーの「声にならない声」をどう聞き取るか、といった自己分析を通じて、自身のマネジメントスタイルを深く理解し、改善していくことが重要です。
バーンアウトは、個人だけの問題ではなく、チームや組織のコミュニケーション、マネジメント、文化に起因する側面が大きくあります。メンバーの負担に敏感になり、それを「見える化」するための継続的な対話と仕組み作りは、マネージャーの重要な責務です。一度の失敗に落ち込むだけでなく、そこから具体的な行動変容につなげる自己分析と実践を積み重ねていくことで、より信頼され、メンバーが安心して能力を発揮できるチームを築いていくことができるでしょう。
今回の失敗を真摯に受け止め、「ごめんね」の気持ちとともに、これからどう改善していくかを考え行動することが、マネージャー自身の成長にも繋がるのです。